〜タイカニック〜
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私はインドア派で有名である。 天気が良くても悪くても、いる場所は常にゲームセンターかプレステかパソコンの前である。 釣りやキャンプは虫がいるし、何となく不衛生な感じがするし、何よりも面倒くさい。 そんな私でも会社のお付き合いってもんが在るわけで、大の釣り好きな会社のボスが「キミも一緒にどうだね?」と言ってきたからには 「ネタ更新がありますので結構です。」 などとは間違っても言えないのが出世を夢見るサラリーマンなのである。
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土曜昼過ぎ、イカ釣り戦士としてボスに選ばれしパーティーが会社に集合。 沖に出て釣りをするなんて全く初めての経験である私はメンバーの出で立ちを見て愕然とした。
全員、揃いも揃ってフィッシャーメンルックなのである。(本物志向!!!)
「汚れてもいい格好で」と前日に渡されたメモを頼りに、捨てても良いようなTシャツに部屋着のチノパンという一見ホームレス状態の私に比べ、集ったメンバーは皆『釣りバカ日誌』の登場人物さながらにバッチリ決まっている。
そのチョッキは本当に必要なのか?
呆然としている私をよそに、係長が 「揃ったな。よし、じゃぁ車に氷を積めー!!!」 と軍隊並みの合図をかける。 釣りバカ達は「おーー!!!」と張り切って合図をしたクセに、一斉に私を見る。(愕然) 入部したての野球部員は球拾いが仕事。と言わんばかりの熱い眼光に私は全てを察し、そして屈した。 どこかの水産業者からもらってきたらしい巨大な氷袋を発砲スチロールの箱に詰め、せっせと車に積んでいると水滴が既に生臭い。 汚れても良い格好で来たとはいえ、こういうのに慣れていない私にはかなり抵抗があった。 なんせ濡れた腕やTシャツから珍味っぽい香りが強烈に漂ってき、時間が経つと獣の臭いに変化するのだから、今日一日この臭いと共に生活することを考えればブルーになる。 積み荷が終わった我々一行はそれぞれ車に乗り、いざ出発である。 目的地の岩内町までは約2時間で行くつもりらしい。 関東方面在住の方とは感覚が違うのかもしれないので補足説明しておけば、この「2時間」は 約120〜130km/h程で吹っ飛ばしての「2時間」 なので、距離にしてはあまり考えたくない位に遠い場所なのである。 ともかく、車は走り出したのだからもう後戻りは出来ない。 ノリノリの係長、くわえタバコでダッシュボード内のカセットテープを探し出す。(お約束)
「おっ、これこれ」
年齢、出で立ち、そしてこれからの目的を考えれば、サブちゃんでもかかりそうな雰囲気ではあったが、予想に反して流れてきたナンバーは同じ海の男でもチューブだった。(笑)
係長の西部警察・大門刑事みたいなサングラスの奥に、私は少年の輝きを見た。
会社からは想像もつかぬほどのウィットに富んだトークを弾ませ、我々一行は目的地に到着。 船のすぐ近くまで車を近づけ、手渡しリレーの要領で次々に荷を積み入れる。 準備は万端。 やがて船頭がタバコをプカーっと吹かしながらやって来て出発の時を告げる。 「出るどー」 やる気の感じられない船頭の言葉でも、ゆらゆら揺れる船の中で一同の志気が高まる。 しかしその船頭、港に繋げてあったロープを外した直後、 「今日は波がかなり高いから、オレがヤバイと思ったら帰るからなー。」(ストイック!!!) ポツリとヘビーな発言をした。
チョット待て。
なぜそんな日に船を出すのか?!!! なぜそんな大事なことをもっと早く言わないのか? 降ります!!と言ったところでもう船は出てしまっているではないか。 船に乗るのは30年生きていてこれが2度目。 1度目はかなり小さい時だったがゲロゲロに吐いた記憶があり、それ以来乗っていない。 ただでさえ船酔いの不安を隠しきれないのに、生死を脅かすエッセンスまで加えられ、私は失禁寸前だった。 ところがいざ出てみれば全然平気で、波など可愛いものである。
これならいける。
プシュッ!!と缶ビールを空け、緊張のためカラカラに乾いた喉を潤す。 「船に酔う前に、酒で酔え」 誰かが私に言った何の解決にもつながらぬ無茶苦茶な論理も、ベテランの格言みたいに頼もしく思えたものだ。
……それがいけなかった。
そこの港はいわゆる『湾』になっており、私が平気と思っていた時点では例えるならば風呂桶の中みたいなもので、向かっているターゲットのイカ釣りポイントへは風呂桶の外側、つまり大自然の大海原へ行かなくてはならないのである。 そうとも知らず、景気付けと言わんばかりにクルージング気分でビールを堪能していた私。 「ん波のぉ〜〜 谷間にぃぃ〜〜」なんて上機嫌で歌っていたのも束の間、湾から出た途端に青ざめる。
荒れ狂う海。自然の驚異。
船首は真上を向くほど激しく揺れ、
海に浮くはずの船は何度も宙に浮いた。
そう。読者諸君の推察通り、私の胸に込み上げてきたのは熱いモノではなく酸っぱいモノであったのだ。
「オレは酔わない。オレは遠くを見ている。だからオレは酔わない。」
繰り返し念仏にも似た自己暗示を掛けたものの、その甲斐虚しくワタクシ、しっかり酔いました。 異常者さながらの虚ろな瞳&荒い息づかいではあったが、何とか人間としてギリギリの部分をキープしようとする私。 脳裏にあるのは 「吐いたらいかん。吐いたら終わり。」 それだけである。 船は更に沖へと進む。 もうしばらく誰とも会話をしていない。 ただひたすら苦痛に耐えた。 ひたすらにある言葉を待っていた。
「おーい、ポイントに着いたどー」(by 船頭)
実は私の待っていたのはこの言葉だった。 私の心のよりどころは「船が停まれば楽になる(はず)」であったのだ。
ところがだ。
停まった船は動いている時よりも遥かにトリッキーな動きで私を翻弄する。(計算外) 風見しんごが昔踊っていたブレイクダンスみたいと形容すべきであろうか。 上に下に、加えて右に左に。である。 私は一体、何を頼りに我慢してきたというのか。 帰る時間まであと何時間残っているのか。 今まで張っていた緊張感が不意に切れそうになった。 そこで小さい悪人顔の私が耳打ちする。 「吐いちまえよ。」 するともう一人の私が反対側でこう耳打ちしてきた。 「ここが堪え所だ、これを越せば楽しいイカ釣り大会なのだぞ?」 そんなテレビやマンガの世界でしかないと思っていた葛藤が現実に我が身に起こった。 小さい私たちが両側でオリジナルの決断を迫る。 苦悩の結果、私が出した結論。
「もう…いいです。」(敬語!!!)
そう思った瞬間、体に伝わる細胞の波紋が頂点に達した。(リバース!!!) ファンタジーの世界で、主人公があるキーワードを口にした瞬間に光り輝く強力なアイテムが現れるなんてのはよくある話しだが、現実では諦めた瞬間に光り輝く吐しゃ物噴射である。 私の目に映る世界はスローモーション。 BGMにはさだまさしの「笑ってよ」のサビ部分が悲しげに流れていた。 もう完全にグロッキー。臨界点を迎えた私には、もはや横になって寝るしか選択の余地はない。 船の一画で胎児のように体を丸め、この悪寒が去っていくのを願う私。
こんな所まで来てイカが釣れないなんて。
気持ち悪さと悔しさで目が潤む。 そんな私の気持ちをよそに
「うおーー!!」 「きたきたーーー!!!」
などという釣りを楽しむメンバーの歓喜の声。
それを聞いて私は更に突っ伏して泣いた。
どの位の時間が経過したであろうか。 メンバー達はまだ盛り上がっている様子だ。 眠ってスッキリしたのか、多少頭はクラクラするが先程と比べれば遥かに回復している。 ゴロリと仰向けになり、しばらく目を開けて様子を見ていたが、もう何ともなさそうだ。
「おーい、イカに噛まれるなよー」 「なぁ、いまイカが鳴いたの聞いたかー?」
ああ、いま私もそこに行きます。 私も皆様の輪に入りまする。
はやる気持ちを抑えつつ、船の壁づたいに歩み寄る。 「おおー?もう良いのか?」 皆は温かく迎えてくれた。元気な姿をアピールして遅れを取り戻すのだ。 「ええ!! もうすっかり大丈……おぶぅ!!!」(スパーク!!!)
もう勝てる気がしない。全面降伏しよう。 スゴスゴとさっきの寝床に戻り、そしてまた泣き寝入りした。 次に目が覚めた時には既に港に帰り着いており、結局のところ私はただの積み降ろし作業員として行ったも同然となった。 時刻は早朝4:00。釣るどころか、一度もイカにすら触っていない完封試合。 帰りのドライブ前に充実感をむき出しにして全身で伸びをする一同。 出発時の威勢を全く失ってしまった私は、メンバーから30杯程入ったイカ一箱の憐れみを受けた。
”一人はみんなの為に みんなは一人の為に”
と言わんばかりで、確かに良いお話しではあるが、
釣った者たちのみが味わう連帯感
みたいなものがプンプンと匂っており、私の疎外感は深まるばかり。 手ぶらで帰るよりはマシだが、それでも船賃の8,500円を考えれば高く付いたショッピングである。 トラウマに近い最悪の出来事であったが、襟元の恐らく吐いた時に付いたであろうスルメが何とも皮肉っぽくて、逆にちょっと笑えた。
2001.8.16
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トラベルミンはケチらない方が良い。と思う。
完